鉄針で78回転。

写真を撮っていなかったので、これは適当なフリー素材。

2024年3月20日 春分。強烈な北風。寒い。雪がちらちら舞う。

日中は昨日に引き続き受託案件を粛々と進めた。自分にできる気がしない仕様になってしまい、はてはてどうしましょうと思ったけれど…インターネットとは便利なもので、調べて学べばなんとかできてしまう。ありがたい。

夕方、先月豊岡でのライブで知り合った方にお誘いいただき、出石にあるご自宅へ。家を出るともの凄い北風で海の表情が力が恐ろしかった。そして風で車道にそこそこ大きな石が落ちてきていたりと、なかなか激しい春分の日。悪いものを地球の外へ飛ばしてしまう勢いで、明日以降気持ちがよくなるかもしれんなぁと、ぼんやり思う。

お招きいただいたお家のご夫婦は蕎麦屋を営んでおられ、かわいい猫×2もいる。おいしい料理をいただき、バンドの話や好きな音楽の話で盛り上がる。その後「蓄音器にハマっていて…」と、貴重な78回転盤を電気を使わない機械式の蓄音器で聴かせていただく流れに。

これが衝撃だった。普段レコードと呼んでいるLPやEPとは全く違う音だった。太い鉄針の先にかかる針圧は100gを超えるそうで(今のレコードプレイヤーのカートリッジの針圧は1.4g)、正に身を削って音を出す。それはアナログで言われがちな、暖かい音でも太い音でもなく、えぐい程の生々しさと躍動感。心臓のポンプから押し出される熱い血液みたいな音。暴力的でもある。十代の頃何度も何度も聴いていた、1950年代のロックンロールやブルースが、同じ音源のはずなのに….目の前で至近距離で演奏されているような肌触り。そして大人しく聞こえていたギターやブルースハープの音が、とてもパンクな音で別物だった。今まで聴いてきた音はなんだったの…偽物だったのか…と、腰が砕けた。

鉄針は消耗品で、5分程再生したら交換。盤も直ぐにすり減ってしまう。そしてロックやブルースの演奏者は貧乏人ばかりで、クラシックなどと比べると物量が圧倒的に少ない上、聴く側も貧乏人なので…文字通り擦り減るまで聴かれた状態の悪いものが殆ど。そんなわけで、今こうして聴かせていただいているこの瞬間は、とても貴重。
鉄針の種類も色々あり聞き比べをさせてもらったけれど、現在も生産されているカーボン入りで強度が強い針で再生すると….一気に弱々しい音で再生された。加えて、78回転対応の現代のレコードプレイヤーで再生したら、LPやEPと変わらない音がした。ソフトは同じでもハードでここまで変わるのか。そして電気で増幅されずに再生される音に、ただただ圧倒された。

音楽も今やデジタルデータで、便利にどこでもスマートフォンからでも再生できてしまう便利さだけれども、その裏側で失われたものは非常に大きい。でも今の若い人の音楽を聴くと、すごく繊細で広がりのある、今の技術を上手に生かして表現している。僕は中途半端な世代で、いやはやなんといいますか…これを知ってしまうと、音作りの落とし所が難しいなぁ。でも幸いずっと貧乏させてもらっているので、手元にあるもんで作るしかない。ただこうして悩んでみるのも贅沢でよろしい。

音楽に限らず古い本物に触れることができる機会があるなら、どんどん飛び込んだ方がいいな。

あと何より5分で交換対象になる鉄針を見ていると、尺には差があれど肉体も同じと改めて。